2025/06/09
実費支給の通勤手当について|考慮すべき点も紹介
通勤手当の実費支給を理解する

通勤手当の実費支給とは、従業員が通勤のために利用した、交通機関の運賃やガソリン代など、実際にかかった費用を会社が後から精算する支払い方法です。
これは、従業員が立て替えた費用を実績に基づいて精算する方式です。 昨今、働き方の変化に伴って、通勤手当の実費支給を導入する企業も増えてきています。
<目次>
1. 実費支給の基本的な意味
2. 実費支給の利点と留意点
3. 通勤方法別の計算方法
3-1. 公共交通機関で通勤する場合
3-2. マイカーやバイクで通勤する場合
3-3. 自転車や徒歩で通勤する場合
4. 税金に関する注意点
4-1. 非課税となる限度額
4-2. 課税になるケース
5. 雇用形態による支給の違い
5-1. アルバイト・パートの場合
6. 実費支給への切り替えと運用
7. まとめ
実費支給の基本的な意味
よく、求人情報などで「交通費実費支給」と記載されていることがありますが、これは従業員が通勤のために実際に支払った費用を会社が精算して支払う方式を指しています。
通勤手当の実費支給では、従業員が通勤に要した金額を実績に基づいて後日支給される方式が一般的です。従来の定期代をまとめて支給する方法とは異なり、出勤日数や利用した交通手段によって毎月の支給額が変動することがあります。
実費支給の利点と留意点
通勤手当の実費支給には、いくつかの利点と留意点があります。
企業側の利点としては、従業員の実際の出社日数に基づいて交通費を支給するため、定期券代の支給に比べて経費削減につながる可能性があります。
例えば、週に数回だけ出社する従業員の場合、実費支給の方が企業の負担が軽減されることが考えられます。
しかし、実費支給には留意点もあります。
企業側にとっては、従業員からの交通費申請の確認や計算、精算といった処理が煩雑になる点が挙げられます。個々の従業員の申請内容を一つずつ確認する必要があるため、事務作業の負担が増加する可能性が考えられるでしょう。
従業員側にとっては、定期券のようにまとめて支給されるわけではないため、一時的に交通費を立て替える必要がでてきます。
その他、出勤する日数が多い場合、1か月定期代と比較して、実費通勤費のほうが高くなる場合もあります。
また、出勤日数が毎月変わる場合は、支給される通勤手当が毎月変動することから、社会保険の「随時改定」対象となる可能性もあります。随時改定の対象となった場合の扱いについては、事前にルールを決めておくと良いでしょう。
通勤方法別の計算方法
通勤手当の実費支給額の計算方法は、通勤に利用する手段によって異なり、企業はこれらの通勤方法に応じて、合理的な方法で支給額を算定します。
公共交通機関で通勤する場合
公共交通機関を利用して通勤する場合、実費支給額の計算は、従業員が実際に利用した最も経済的かつ合理的な経路の運賃に基づきます。
一般的には、1ヶ月の通勤定期券の金額を基準とすることが多いです。企業によっては、3ヶ月や6ヶ月の定期券代をまとめて支給する場合もあります。
この場合の非課税限度額は1ヶ月あたり15万円です。
新幹線や特急列車を利用した場合の運賃は、合理的と判断されれば非課税通勤手当に含まれますが、グリーン料金は含まれません。
従業員が出社した日数に基づいて実費を計算する場合は、
「片道の運賃×2(往復分)×出勤日数」
という計算方法が一般的です。
その際、月途中で通勤経路が変更となった場合は、それぞれの経路の出勤実態を基にした、実費計算を行う必要がでてきます。
また、月の途中で運賃改定が発生した場合も、正確な運賃で実費通勤費の算出を行うことが求められます。
このように、公共交通機関での通勤における実費支給額は、定期代を基にするか、実際の日数に応じた運賃を基にするかで計算方法が異なります。
いずれの場合も、最も経済的かつ合理的な経路での運賃が原則となります。
マイカーやバイクで通勤する場合
マイカーやバイクで通勤する場合の実費支給額は、公共交通機関のように運賃が決まっているわけではないため、計算方法を明確に定めておくと良いでしょう。
多くの企業では1キロメートルあたりいくらという単価を設定し、通勤距離と出勤日数から算出する方法を採用しています。
例えば
「1キロメートルあたりの単価×片道の通勤距離×往復分×出勤日数」
といった計算式が考えられます。
また、非課税限度額の上限を基準にし、距離に応じた一定額を支給する方法も考えられます。
ガソリン代は燃費やその時々の価格によって変動するため、実費を正確に計算し精算することは煩雑になります。
そのため、多くの企業では一定の算出基準を設けていることが一般的です。
有料道路の利用料金や駐車場代、駐輪場代については、原則として課税対象となります。
しかし、通勤に有料道路の利用が不可欠と判断される場合は、公共交通機関と同様に非課税となることもあります。
マイカーやバイク通勤の場合の非課税限度額は、片道の通勤距離によって定められており、これを超える金額は課税対象となります。
交通用具の非課税限度額については「マイカー通勤者の通勤交通費はどう考えればいい?計算方法のあれこれ」で説明していますので、ご参照ください。
自転車や徒歩で通勤する場合
自転車や徒歩で通勤する場合の通勤手当は、費用が発生しない通勤方法のため、支給の有無や計算方法は会社が任意で定めることになります。
徒歩通勤の場合は一般的に通勤手当は支給されないことが多いのですが、自転車通勤の場合は支給されるケースもあります。 自転車は所得税法上、マイカーと同様に「交通用具」として扱われるため、通勤手当が非課税となる限度額が通勤距離に応じて定められています。
自転車通勤の場合の実費支給額の計算方法としては、
「片道の通勤距離×2(往復分)×距離単価×出勤日数」
のように、通勤距離に応じた単価を設定して算出する方法が考えられます。
この場合の距離単価は会社が独自に定めることがほとんどです。
また、距離に関わらず一律定額を支給する企業や、公共交通機関の定期代を参考にする企業もあります。
有料駐輪場を利用している場合は、その費用を通勤手当に含めて支給する企業もありますが、原則としては課税対象となります。
自転車通勤に対する通勤手当の実費支給は、企業の規定によって計算方法や支給額が大きく異なります。
税金に関する注意点
通勤手当は、全額が非課税になるわけではありません。
通勤手当の非課税限度額を超えて支給された場合、その超過分は給与所得として扱われ、源泉徴収が行われます。
非課税となる限度額
通勤手当には非課税となる限度額が定められており、これを超えた金額は所得税の課税対象となります。
公共交通機関を利用して通勤する場合、1ヶ月あたりの非課税限度額は15万円です。この限度額は、
通勤のための運賃、時間、距離などを考慮し、最も経済的かつ合理的な経路および方法で通勤した場合の通勤定期券などの金額に基づきます。
新幹線や特急列車を利用した場合でも、それが合理的な通勤方法と認められれば非課税通勤手当に含まれますが、グリーン料金は合理的・経済的とはみなされないため非課税対象外となります。
マイカーや自転車で通勤する場合の非課税限度額は、片道の通勤距離によって細かく定められています。
交通用具の非課税限度額については「3-2. マイカーやバイクで通勤する場合」で言及していますのであわせてご確認ください。
公共交通機関とマイカーや自転車を併用して通勤している場合は、それぞれの通勤方法の非課税限度額を合計した金額が非課税となりますが、合計額の上限は1ヶ月あたり15万円です。
例えば、自宅から最寄り駅まで自転車を利用し、駅から会社まで電車を利用する場合、自転車通勤の距離に応じた非課税限度額と電車の定期代を合算した金額が15万円までであれば非課税となります。
これらの非課税限度額は、パートやアルバイトといった短時間労働者にも月を単位として適用されます。
課税になるケース
通勤手当が課税対象となるケースは、主に非課税限度額を超えて支給される場合です。
また、最も経済的かつ合理的でないと判断される経路の運賃も課税対象となる可能性があり、グリーン料金がそれに該当します。
マイカーや自転車で通勤する場合、非課税限度額は片道の通勤距離によって定められており、これを超える金額は課税されます。例えば、片道18kmのマイカー通勤で月2万円の通勤手当が支給された場合、非課税限度額は月1万2,900円のため、差額の7,100円が課税対象となります。
また、 有料道路の利用料金や駐車場代、駐輪場代も、原則として課税対象となります。
徒歩通勤の場合、通勤費用が発生しないことから、支給される通勤手当は原則として全額が課税対象となります。
特に、実費支給の場合は毎月支給額が変動することから、毎月、都度課税額を計算しなおす必要があることも見落とせないポイントになります。
非課税限度額を超過した通勤手当は、給与所得として扱われ、所得税および復興特別所得税の源泉徴収が行われます。
雇用形態による支給の違い
通勤手当の支給については、正社員だけでなくアルバイトやパートといった雇用形態の従業員に対しても行われます。同一労働同一賃金の考え方に基づき、正社員と非正規社員との間で不合理な待遇差を設けてはならないと定められています。
ただし、企業によっては週の勤務日数や一日の勤務時間によって支給条件を設けている場合もあります。
アルバイト・パートの場合
アルバイトやパートの通勤手当についても、正社員と同様に支給されるのが一般的です。これは「同一労働同一賃金」の考え方に基づき、雇用形態による不合理な待遇差を解消するためです。
しかし、企業によっては週の勤務日数や勤務時間によって支給条件が設けられている場合があります。
例えば、「週〇日以上勤務で支給」や「週〇時間以上勤務で支給」といった条件です。これらの支給条件は会社の規定によって異なってきます。
実費支給の計算方法も、雇用形態に関わらず通勤手段によって異なります。
公共交通機関を利用する場合は、定期代や実際にかかった運賃に基づき支給されます。
マイカーやバイク通勤の場合は、通勤距離に応じた非課税限度額を参考に、会社が定めた距離単価と出勤日数で計算されることが多いです。
自転車や徒歩通勤の場合、支給の有無や計算方法は会社の任意となりますが、自転車通勤の場合は通勤距離に応じた非課税限度額が定められていますので、それを考慮した支給額となることもあるでしょう。
アルバイトやパートの場合、勤務日数が少ないことがあるため、定期代としてまとめて支給するのではなく、出勤した日数分の実費を計算して毎月支給する形式が多く見られます。
この場合、日額の往復運賃に出勤日数を乗じて算出することが一般的です。
ただし、バス代など日々の運賃計算が煩雑になる場合は、月の出勤日数を固定でみなすなど、運用上の工夫をしている企業もあります。
実費支給への切り替えと運用
実費支給への切り替えを検討する際には、まず就業規則や賃金規程における通勤手当に関する定めの見直しが必要になるでしょう。
多くの企業では、就業規則で通勤手当の支給について規定しており、それに従って支給義務が生じてきます。
就業規則には、支給対象者、計算方法、支給上限額、申請方法などを明確に定める必要があります。
特に実費支給の場合は、出勤日数に応じた計算方法や、公共交通機関、マイカー、自転車など通勤手段ごとの具体的な計算ルールを詳細に規定することが求められます。
運用面では、従業員からの通勤費の申請、内容の確認、計算、そして精算という事務作業を行うことになります。
これらの事務作業は、従業員数が多い場合や通勤経路が多様な場合には、煩雑になりがちで業務負荷が高くなります。
実費支給への切り替えは、単に計算方法を変更するだけでなく、就業規則の改定やそれに伴う従業員への周知、そして日々の運用体制の構築が不可欠となります。特にテレワークとの併用など、多様な働き方に対応するためには、柔軟かつ明確なルール設定が重要になります。
まとめ
通勤手当の実費支給は、従業員が通勤に実際にかかった費用を精算・支給する方法です。
これは定期代の定額支給とは異なり、昨今テレワークが普及する中で導入する企業が増えています。
企業にとっては出勤日数に応じた費用負担となることから、コストダウンというメリットがあります。
しかし、経理処理の煩雑さ、従業員側の申請の手間や一時的な立て替えが必要になる点などが留意点として挙げられます。
また、通勤方法によって計算方法が異なり、公共交通機関の場合は定期代や日割りの運賃、マイカーやバイクの場合は通勤距離に応じたガソリン代の算出を行うのが一般的です。
税務上、通勤手当には非課税限度額があり、これを超える分は課税対象となります。 非課税限度額は公共交通機関で月15万円、マイカーや自転車の場合は通勤距離に応じて定められています。
アルバイトやパートに対しても、同一労働同一賃金の観点から通勤手当は支給されるのが一般的です。その場合、勤務日数による実費支給となることが多くなります。
実費支給の効率的な運用のためには、通勤管理システムの導入も有効な手段です。
通勤管理システムには、申請ワークフロー機能を設けているものも多いので、そういったシステムを活用することで、従業員が容易に申請でき、会社側も申請内容の確認や計算、精算を効率的に行うことが可能になります。
また、運賃改定への対応や、定期券代との比較シミュレーションなどの機能を利用することで、業務効率化が図れるでしょう。
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